デヴィッド・ボウイの約半世紀にわたる創作活動を振り返る大回顧展『デヴィッド・ボウイ・イズ』がアジア唯一となる日本で2017年1月8日(日)から4月9日(日)までの約3か月間開催された。会場は東京・天王洲の寺田倉庫G1ビル。
大回顧展は2013年よりイギリス・ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館を皮切りに巡回展をスタート。手書きの歌詞やオリジナルの衣装(ジギー・スターダスト時代の2着はレプリカ)、ファッション、写真、映像、ミュージック・ヴィデオ、ボウイが所有した楽器など75,000点に及ぶ所蔵品のなかから厳選した300点以上の貴重な品々を展示。さらに体験型のユニークな展示を交えてデヴィッド・ボウイの世界観を忠実に表現した。
日本でもほぼ同様の展示となり、日本だけの特別展示も公開された。本展では入場者ひとりひとりに手渡されるヘッドフォンを装着して鑑賞する。展示物の前に立つだけで、それぞれとシンクロした音楽やボウイ自身の語り、そして関係者のインタビューが流れてくる。単なる音声ガイドに留まらないこの仕組みによってデヴィッド・ボウイの世界を目と耳と、五感で体感できる。
「DAVID BOWIE is」開催概要 | |
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公式 | サイト(公開終了) / Twitter / Facebook / Instagram |
期間 | 2017年1月8日(日)~4月9日(日) |
時間 | <火~木・土・日・祝> 10:00~20:00(最終入場 19:00)<金> 10:00~21:00(最終入場 20:00) |
休館日 | 毎週月曜日 ※但し1月9日、3月20日、3月27日、4月3日は開館 |
会場 | 寺田倉庫G1 ビル(天王洲) |
住所 | 東京都品川区東品川二丁目6番10号 |
料金 | 一般:2,400円(2,200円)中高生:1,200円(1,000円)( )内は前売り、小学生以下は無料。 |
チケット | チケットぴあ特設サイトにて販売。開催前には限定オリジナルグッズ付き(5,000円 ※前売りのみの取り扱い)も販売された。 |
入場 | 日時指定されたチケットを持参する。入場枠は各日、①【10:00-12:00】②【12:00-14:00】③【14:00-16:00】④【16:00-18:00】⑤【18:00-19:00】の5枠。(毎週金曜日の⑤は~20:00まで入場可/21:00 閉館)。手持ちのチケットの入場日時枠のなかで好きな時間に入場可能。入れ替え制ではなく入場後の館内滞在時間も制限はなし。また入場枠に残数がある場合は当日券も販売。 |
グッズ | ※オフィシャルストアのみの来場が可能(入場無料/グッズは無くなり次第販売終了)。※オンラインストア(公開終了)は一部商品のみ取扱い。 |
会期中に開催された大回顧展関連イベント | |
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10/28(金)~12/28(日) | SNSによるファン参加型の特別内覧会招待企画「あなたにとってデヴィッド・ボウイとは?」 ※公開終了 |
1/5(木) | V&Aキュレーター(ヴィクトリア・ブロークス、ジェフリー・マーシュ)による解説付き特別内覧会 ※上記イベントの当選者20名を招待 |
1/8(日)~4/9(日) | りんかい線で「DAVID BOWIE is」へ行こうキャンペーン ※天王洲アイル駅改札内に掲出しているキャンペーンポスターを撮影した写真画面を提示するとオリジナルステッカー(5種類)をランダムでもれなくプレゼント |
2/8(水)~2/14(火) | バレンタイン・ナイト ※18時以降の来場者に抽選でチョコレートをプレゼント |
2/26(日) | プレミアム・トークショー第1弾 鋤田正義/銀座ソニービル ※入場料5,000円(回顧展ALL TIMEチケット付) |
3/5(日) | プレミアム・トークショー第2弾 山本寛斎/銀座ソニービル ※入場料5,000円(回顧展ALL TIMEチケット付) |
3/11(土) | プレミアム・トークショー第3弾 ミック・ロック/銀座ソニービル ※入場料5,000円(回顧展ALL TIMEチケット付) |
3/19(日) | プレミアム・トークショー第4弾 高橋靖子/銀座ソニービル ※入場料5,000円(回顧展ALL TIMEチケット付) |
3/29(水) | 集英社UOMO、SPUR、T JAPAN3誌による特別イベント 坂本龍一トークショー&ライブ ※200名限定。入場料21,600円(『DAVID BOWIE is』特製トートバックと坂本龍一の新譜CD付) |
4/5(水) | DAVID BOWIE de 来場コンテスト |
4/6(木) | プレミアム・トークショー ジョナサン・バーンブルック ※70名完全招待制 |
寺田倉庫G1ビル~エントランス
回顧展開催を知らせる寺田倉庫G1ビルの屋外バナー。会期中、公式が書き込みを許可、さらにボウイのアーカイヴに寄贈される旨も発表されたため最終日には日本語、英語、イラストなどありとあらゆるメッセージで埋め尽くされた。
入場時にはひとりひとりに専用のヘッドフォンとレシーバーが提供される。単なる音声ガイドには留まらない、各セクションの内容とシンクロする楽曲、インタヴュー音声を聴きながら、目や耳でデヴィッド・ボウイの世界に入り込むことができる。この最新のテクノロジーを駆使した、新しいマルチメディア体験は展示終盤のショウ・モーメントでも効果を発揮する。会場のデザインや音響・映像の監修には先鋭的な舞台セットや映像デザインで高い評価を浴び59プロダクションズが起用された。
山本寛斎デザインの衣装『Tokyo Pop』
ボウイが山本寛斎の作品をはじめて目にしたのは1971年のロンドン・コレクション。その頃はまだオリジナルには手が届かなかったため友人のナターシャ・コルニロフやフレディ・バレッティに依頼し代表的なボディースーツを安価で制作してもらっていたという。
『Ziggy Stardust』で成功を収めた後の1973年、ライヴで着用するためにもっと派手な衣装を作るよう山本寛斎に懇願。日本の侍や歌舞伎にインスパイアされた衣装は斬新かつ彫刻的な造形で大いに人目を引いた。
デヴィッド・ジョーンズの成長過程
入口から入ってすぐの展示はデヴィッド・ボウイとして成功するまでの軌跡を辿る展示。当時はデヴィッド・ボウイのステージ・ネームではなく本名のデイヴィ・ジョーンズとして知られていた。16歳で一度広告代理店に就職するものの1年後には音楽活動での成功を目指すため退職。ザ・ビートルズやローリング・ストーンズなどのバンドが音楽界に革命を巻き起こしていたころ、ボウイはバンドでサックスとボーカルを担当していたが、まだ成功への足がかりをつかめずにいた。このエリアでは3Dのような空間で若い頃の体験とキャリアについて語る姿が窺える。キャリア初期のセットのスケッチや衣装、一番最初のバンドのために作ったボスターのデザイン、ライブ映像などが展示されている。
魅せられし変容の原点「Space Oddity」
オリジナル・アートワークや直筆の歌詞、レコーディングに用いたスタイロフォン、ブリキの宇宙船のおもちゃなど『Space Oddity』にまつわるボウイの所蔵品が展示されたコーナー。ほかにもトム少佐リバイバル(1979年)で着用したル・コルビュジェのモジュロールの描かれたジャンプスーツ、1969年当時のアポロ関連の新聞記事や後にアップルのスティーブ・ジョブズが「インターネットの前身」と評したサブカル・ファン垂涎の雑誌「Whole Earth Catalog」の展示など当時の世相の一端を包括的に体感できるような工夫がみられる。
歌番組の鮮烈すぎる「Starman」
最初のエリアの奥に展示されているのは1972年、BBCの人気音楽番組だった『トップ・オブ・ザ・ポップス』に出演し、スパイダーズ・フロム・マーズを従え「Starman」を披露するパフォーマンス映像。同番組はジギー・スターダストというキャラクターの誕生を知らせ、英国全土に大きな影響を与えた。これによってポップ・ミュージックの流れは大きく変化したと言われているほど。この歴史的パフォーマンスをヘッドフォンから聞こえる迫力のサウンドと映像で体感できる。また『Ziggy Stardust』のための初期の衣装も披露。スタンリー・キューブリック監督の映画『時計じかけのオレンジ』にインスパイアされたこの衣装は映画本編に登場する白いジャンプスーツを再解釈したもの。
東洋の神秘とジギー
ボウイはジギーを奇抜なキャラクターにするべく能や歌舞伎、浮世絵といった日本文化のとくにヴィジュアルに影響を受けた。歌舞伎『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』を描いた1900年頃の浮世絵は山本寛斎がその要素をデザインに取り入れたという。
ここで展示されている衣装は山本寛斎デザインのうさぎをあしらった『因幡の素兎』ボディスーツ。これがボウイが着用したはじめての山本寛斎によるオリジナル衣装。ボウイはのちに「どうしようもないほど他愛ない”うさぎちゃん”」と冗談まじりにこの衣装を表現した。さらに山本寛斎デザインの漢字で「出火吐暴威」と書かれたマント。トニー・ヴィスコンティのミックスによる約20分のマッシュアップで回顧展のために制作された。
頭上にはボウイが選んだ100冊が天井に向かって螺旋状に展示されている。
ボウイの仕事場、レコーディング・ブース
防音設備を組み込んだヴォーカル用レコーディング・ブースを再現した閉じたスペース。壁面には歴代のアルバム・ジャケット(見開きのジャケットは両面を展示)や直筆の歌詞が飾られており、同じ広さのスペース、つまりこの狭いスペースで歌入れのレコーディング・ブースからポピュラー・ミュージック史に刻まれた名曲、名盤の数々が産み出されたことを実感するような展示になっている。
ユニオン・ジャックのフロックコート
ボウイはアレキサンダー・マックイーンのキャリア初期から協業していた。1997年のアルバム『Earthling』のジャケットを飾ったユニオン・ジャックを大胆に配したこのフロック・コートはセントラル・セント・マーチンズを卒業したばかりの当時26歳のマックイーンに依頼したもの。ザ・フーでボーカルを務めるピート・タウンゼントが着ていたコートにインスパイアされたというこの衣装を、会場ではマックイーンからボウイに宛てた手紙を背景に見ることができる。
また2006年にニューヨークのメトロポリタン美術館で開催されたイギリスの伝統と反抗にまみれたファッション史を総括する展覧会『Angromania』でもこのコートは展示されており、イギリスの文化を象徴するコスチュームといった位置付けがなされているといえる。
歴代アートワークが集結
ジギー~マックイーンの衣装が展示されている大部屋の奥にあたるエリアにはカットアップメソッド導入やコンピュータによるランダムな言語組み替えによる作詞プログラムのスクリーン映像やエドワード・ベルの『Scary Monsters』ジャケットのアートワークの原画、ブライアン・ダフィの『Aladdin Sane』のジャケット写真撮影時のコンタクトシートなどが展示されている。『Aladdin Sane』のメイクアップのイメージとして採用された稲妻のデザインはセレブやファンらのフェイス・ペインティングに、グッズのデザインにと今日もあらゆるかたちで再現されている。
黄金期の衣装たち Ⅰ
中盤の展示エリアには70年代から00年代までのヴィデオ撮影やステージで着用した衣装たちが集結。アウトサイド、シリアス・ムーンライトといったワールド・ツアーの衣装、白シャツに黒のトラウザーズ、オールバックのブロンドにジタンの煙草がトレードマークのシン・ホワイト・デュークの衣装はスラッシュの母親オラ・ハドソンによるデザイン。『1980 Floor Show』のあの奇抜な衣装や1996年のブリット・アワード授賞式で着用したスーツとピンヒール。リバティ社のプリントで制作されたジギー時代のジャンプスーツのレプリカは棺桶に埋葬されるかたちで展示、クラウス・ノミらと共演した『SNL』で着用したダダの演劇『ガスで動く心臓』のオマージュでもある衣装はソニア・ドローネーにインスパイアされたことを裏付けるスケッチや番組の映像とともに展示。さらにリアリティ・ツアーの衣装をデザインしたデス・キラーズの生地見本のパネルや口紅を拭ったティッシュまでもが展示されている。
黄金期の衣装たち Ⅱ
大部屋を後にしたエリアにも『Ashes To Ashes』のミュージックビデオで着用したナターシャ・コルニロフのデザインによるピエロをはじめスクリーミング・ロード・バイロンのシェヘラザード風衣装、「Life On Mars?」のヴィデオで着用したミントブルーのスーツ、アルマーニがデザインした1990年ワールド・ツアーの衣装などが展示されている。衣装以外にも数台のモニタに映し出されるミュージック・ヴィデオ、アースリング・ツアーや「Where Are We Now?」MVでも活用されたトニー・アウスラーのユーモア溢れる3Dマッピング、『SNL』で共演したプードル・カットのピンクの犬、テリー・オニール撮影によるドーベルマンとのフォト・セッションのプリントなどヴィジュアル創作の軌跡を凝縮した展示が続く。
俳優としてのデヴィッド・ボウイ
ボウイ所蔵のアーカイヴからの展示ということで衣装や私物ほどには目立たないものの俳優としてのキャリアを振り返るエリアも小規模ながら充実。代表的な出演映画の登場シーンを抜粋して上映する座席付きのシアター・ルーム。舞台『The Elephant Man』で着用した腰巻き、『バスキア』でウォーホールに扮した際に着用したドレッド付きヘルメット、ジム・ヘンソンから送られた『ラビリンス 魔王の迷宮』の脚本には手書きのメモが添えられていた。「君はこの映画で本当に上手くやってくれるはずさ」。
ベルリン三部作の時代
イギーらとベルリンに滞在した時代に焦点を当てたエリア。当時のボウイに影響を与えたダダイズムやドイツの表現主義、キャバレーについて、またその時代の手紙や私物類を展示。非現実的な造形のなかに社会の不安や人間の心の闇を表現していく表現主義の手法を採り入れたボウイの筆による三島由紀夫やイギー・ポップの肖像画、『”Heroes”』のレコーディングにイーノが持ち込んだブリーフケース型シンセと日本のファンが贈ったミニチュアの琴、オブリーク・ストラテジーズのカードや「Blackout」のカットアップされた歌詞、「”Heroes”」の直筆の歌詞、滞在していたシェーネベルク・ハウプトシュトラッセのアパートの鍵など、当時の暮らしぶりが前世紀の詩人のそれようにドラマチックだったことを伝える。
北野武、坂本龍一らボウイを語る
展覧会の終盤に差し掛かるエリアにある日本のオリジナル展示「David Bowie Meets Japan」。ここでは大島渚が監督した1983年の映画『戦場のメリークリスマス』を軸に、共演者である北野武、坂本龍一らのインタヴューを放映。
教授は「『★』は死を覚悟して作られたアルバムとは思えない」といった発言を、たけしは「Let’s Dance」を「古くて新しい」と表現するなど、思い思いにデヴィッド・ボウイについて語る。
体感するショウ・モーメント
クライマックスとなる大部屋の360度どこを見渡してもライヴ映像で囲まれるショウ・モーメント。大迫力のスクリーン映像とサウンドで「The Jean Genie」や「”Heroes”」ほかボウイのライヴ・パフォーマンスを体感できるこの空間はまるでコンサート会場にいるような錯覚に。ここにもジギー時代、ダイヤモンド・ドッグス・ツアーで着用した衣装の数々、エディ・スリマンによるブルーのシルクスーツなど名だたる衣装たちが展示されている。ブルーのシルクスーツは少年時代に感銘を受けたエディ・スリマンがディオール・オムのデザイナーであった時期に制作。またスリマンは夫を亡くしたイマン・アブドゥルマジドに対して“David”の綴りのネックレスを送った。
また大部屋の中央の展示ケースにはテレビ番組『1980 Floor Show』の舞台美術のスケッチやツアーのステージ設計に関する資料、エルヴィス・プレスリーから送られた祝辞なども。
David Bowie Is All Around You
ショウ・モーメント・セクションの出口よりヘッドフォンを返却して先へ進むと5点の衣装とミック・ロックやテリー・オニールらの写真が壁面に展示されているエリアへ。三宅一生のキュロット、ミック・ロックの『Pinups』フォトセッションで着用したブラウンのスーツ、50歳を祝うバースデー・コンサートで着用したマックイーンがデザインした破れや綻びのダメージをあしらったコート、そしてフィービー・ファイロが手がけるセリーヌのコレクションのインスピレーション源にもなった1974年にフレディ・バレッティが手がけたからし色のダブルスーツなどが展示されている。衣装の背景にはハーブ・リッツによるフォト・セッションをとらえた映像も。
デイヴおじさんの誕生日を祝うメッセージ
出口を曲がったエレベーターホール手前に、日本開催のサプライズとしてボウイからの日本のファンへ向けた誕生日を祝うメッセージ映像が放映されていた。自身や友人、家族の誕生日に合わせて来場した人も少なくなかったという。収録は『Heathen』のプロモーションの折だそうで2002年になる。
「お誕生日おめでとう。デイヴおじさんがみんなの幸せを祈ってるよ。このメッセージを毎日流し続ければいつか必ずきみの誕生日に当たる。”デイヴおじさんが祝ってくれた”と喜んでくれるかな?」
1Fカフェ&バー、オフィシャルストア
大回顧展を鑑賞し終えて1Fへ降りると会期にあわせてオープンしているカフェ&バーとオリジナル・グッズを購入できるオフィシャルストアが展開。カフェ&バーではコーヒーはじめお酒や軽食も。ドリンクをご注文するともれなくオリジナル・コースターをプレゼント。ストアでは各国開催の回顧展でも人気のトートバッグやTシャツ、ポストカード、マグカップ、クリアファイル、関連書籍、売り切れで入荷待ちとなることの多かった会場限定販売のレコードなど豊富な品揃え。