ジャンプ・ゼイ・セイ / Jump They Say
[原詞はdavidbowie.com掲載分より]
When comes the shaking man
A nation in his eyes
Striped with blood and emblazed tattoo
Streaking cathedral spire
身震いのやまぬ男は
その眼に国家を宿してやって来る
鮮血と紋章の剳青に染め上げられて
大聖堂の尖頂で白昼劇さ
They say
They say
They say
he has no brain
人々は言う
口々に言うのさ
人々は言う
あの男は狂っているんだ
They say
he has no mood
They say
he was born again
口々に言う
あの男に感情などありやしない
人々は言う
あれは更生したんだぞ
They say
Look at him climb
They say ‘Jump’
口々に言う
見ろ、やつが登っていくぞ
口々に言う 飛び降りろ
They say
He has two Gods
They say
he has no fear
人々は言う
あの男は厄病神だ
口々に言う
あの男は恐怖などしない
They say
He has no eyes
They say
He has no mouth
人々は言う
あの男に目などあるものか
口々に言う
口だってありやしない
They say ‘Hey that’s really something’
They feel he should get some time
I say he should watch his ass
My friend don’t listen to the crowd
They say ‘Jump’
人々は言う「こいつは大したものだ」と
人々は彼が報われて然るべきなんだと
バカな真似はよすんだ
友よ、群衆に耳を貸すことなどないんだ
口々に言う 飛び降りろ
Got to believe somebody
Got to believe
誰かを信じてみることなんだ
信じるんだ
訳詞にあたって
義兄テリーと彼のような精神薄弱の人間を抱え込む社会全体をモンタージュした歌詞はアグレッシヴなサウンドとの対比によってミニマルな美しさをたたえます。
歌詞についてボウイ自身がジャーナリストらに「テリーについての歌だ」と仄めかしたのは事実ですし、そのことを疑うわけではないのですが、個人的にこれはソマリア出身の妻イマンに捧げられたメッセージなのでは、という思いがしています。黒と白の人種間、宗教間の狭間でモデルとして生きなければならなかったイマンを励ますつもりで、ついボウイは義兄を主人公にしたままペンを走らせたのではないかと。『Black Tie White Noise』というアルバムそのものがイマンへ捧げられたものだから正解も不正解もないのですが、テリーが実際に命を落とした鉄道自殺ではなくオフィス棟の屋上から身を投げる映像の仕上がりも大衆に向けられた気付きや警告のようにもとれます。
余談ですがヴィデオの最終で自動車のボンネット上に仰向けで倒れているボウイは史上最も美しい自殺体といわれている1947年にエンパイアステートビル86階の展望台から身を投げたイヴリン・マクヘイルの写真を模しています。
歌詞のなかで個人的に気に入っているのはエンディングの「Got to belive somebody」の節。結束感を強めるメッセージは詞全体の前置きがあってこそ高らかに歌えるものだしスタジオ・トラックでは鎮魂のサックスがこの部分に重なり世界が拡張されたかに見せてくれます。